親の不動産を相続する事になり、登記簿謄本(登記事項証明書)を確認すると、抵当権設定の登記がされている場合があります。このような場合はどのように相続登記を進めていくとよいのでしょうか?今回は抵当権設定の登記がされている相続登記の進め方についてお話します。
住宅ローンの融資を受けている
登記事項証明書の乙区に「抵当権設定」と記載があり、下線が引かれていない場合は抵当権の登記が残っているという事になります。一戸建てやマンションなどの不動産を購入する際に、銀行などの金融機関(債権者)から融資を受けて購入した場合、債権者は対象の土地や建物に担保権を設定し融資することが一般的です。銀行で住宅ローンの手続きを行い、融資および抵当権設定は保証会社が行うケースもあります。抵当権の設定により、債務者が返済を滞った場合に債権者は貸したお金(債権)を回収するために不動産を差し押え競売にかけ、売却代金から登記の順位で債権を回収することができます。担保をつけた不動産に抵当権設定の登記をする事で、第三者がわかるようになり、不動産の所有者が独断で贈与や売却することを防止します。抵当権の設定登記は金融機関から委任を受けた司法書士が行うことが通常です。
住宅ローンを完済している
住宅ローンの利用は35年や50年といった長期にかけて返済する契約がありますが、住み替えや借り換え、繰り上げ返済などで契約期間より早く完済しているケースもあります。また、住宅ローンの契約時に加入する団体信用生命保険の適用により契約者が高度障害状態や死亡した場合は返済が免除される場合があります。この適用により相続人が返済義務を負わない事になります。
抵当権の設定登記を抹消するには
登記事項証明書に記載されている抵当権設定の登記を抹消するには、所有者自身で抵当権抹消の登記をする必要があります。債務者が住宅ローンを完済しても金融機関が抵当権抹消の登記をしてくれるわけではありません。完済した場合に抵当権抹消登記に必要な書類は、金融機関に受領しに行くか、郵送されてきます。金融機関から発行された書類を基に申請書類を作成し、管轄の法務局で抵当権抹消の登記を行う必要があります。法務局では申請書類の作成代行は行いませんので、所有者(亡くなっている場合は相続人)又は司法書士が登記に必要な申請書類を作成します。一般的には司法書士に依頼するケースがほとんどです。法務局で抵当権抹消の登記手続きをしない限り、抵当権設定の登記は残ったままになります。
抵当権抹消の登記に必要な書類
抵当権抹消の登記をするためには金融機関から受領する書類が必要です。所有者である被相続人は、住宅ローンの返済が完了した時点で金融機関から抵当権抹消の登記に必要な書類を受け取っていた可能性があります。また、受け取った書類を紛失している場合もあります。相続人は金融機関から発行された書類の有無を確認し、紛失している場合は金融機関に事情を説明し再発行の手続きを行いましょう。団体信用生命保険の適用により返済が免除された場合は、相続人が金融機関から必要な書類を受け取る事になります。
金融機関から受け取る書類
①登記登記済証または登記識別情報通知
抵当権設定の登記を行うと法務局から金融機関(抵当権者)の登記済証や登記識別情報通知が発行されます。平成16年の法改正までは法務局の赤い印が押印された登記済証が発行されていましたが、法改正後はオンライン化されたため登記済証は廃止され、登記識別情報が登記名義人に交付されます。登記識別情報は12桁の英数字の組み合わせのパスワードのようなものです。12桁の英数字は緑色のシールで目隠しされている状態になっており、一度剥がすと再度貼り直す事はできません。次の登記を行う時まで剥がさずに保管するようご注意ください。平成27年には登記識別情報の書式が変更になりパスワードを目隠ししていたシールが廃止されミシン目を切り取るとパスワードが確認できるように変更されています。どちらの登記識別情報も紛失した場合は特別な手続きが必要で手間も費用もかかります。再発行はできませんので大切に保管してください。
②解除証書
金融機関によっては「弁済証書」、「放棄証書」など名称が異なります。住宅ローンの返済が終了したことを証明する書類です。
③金融機関の委任状
抵当権抹消登記の委任状は、金融機関が登記手続を行う者に対し抵当権抹消の登記を委任するための書類として発行されます。抵当権抹消の登記を申請するためには、上記の書類の他に、司法書士に委任する場合は申請者からの委任状などが必要です。法務局で申請をする際は登録免許税の納付が必要です。登録免許税は、不動産1個につき1,000円です。土地1筆と建物1棟の場合は2,000円になります。
抵当権の抹消登記を放置することで起こるデメリット
銀行などの金融機関から発行される抵当権抹消の登記に必要な書類には、提出期限の定めがありません。そのため、抵当権抹消の登記に必要な書類を受け取っても登記手続きをせずに放置している場合があります。長い間放置していると金融機関の本店移転や合併、代表者の変更などが起きる場合があります。このような場合は、追加の書類が必要になりますので余計な手間と時間がかかります。金融機関から必要書類を受け取った場合は、速やかに抵当権抹消の登記を行うことをお勧めします。
司法書士に依頼するメリット
抵当権抹消の登記は管轄の法務局で手続きを行います。相続人が自ら登記申請を行う場合は、慣れない申請書類を作成するために手間や時間がかかります。管轄の法務局へ出向き申請ができたとしても、申請書類に不備があると法務局は受理してくれません。法務局では登記官が審査を行い、申請内容に不備があると取り下げになります。取り下げまでいかない軽微な不備の場合は登記官から連絡があり、平日の開庁時間内に法務局へ出向き不備を補正しなくてはいけません。このような場合は登記完了日が遅れることになります。登記完了後に売買契約などが予定されている場合は契約日や決済日に遅れが生じる場合があります。所有者に相続が発生している場合は、抵当権抹消と同時か先に相続登記を行わなければなりませんので、より手続が複雑です。司法書士は登記の専門家であるためスムーズにまとめて登記申請を行うことができます。
当事務所の対応
今回は銀行などの金融機関が住宅ローンの融資を行った場合に抵当権設定の登記がされていたケースをお話ししました。相続による不動産の名義変更(所有権移転登記)を行う際に、抵当権設定の登記がされていた場合は、金融機関に完済の有無を確認する必要があります。完済している場合は、金融機関から発行された解除証書等の書類を基に管轄の法務局で抵当権の抹消登記を行います。抵当権抹消の登記の専門家は司法書士になります。今回のように相続が発生している場合は、相続による所有権移転登記と合わせて司法書士に依頼することで手間や不備が起こるリスクを少なくできます。当事務所は、初回相談から司法書士が対応し、登記申請から完了までの流れ、必要書類や登記費用の説明を行っています。ご納得いただいてからの着手になりますのでご安心ください。相続登記を行う際に抵当権抹消の登記が必要な場合はお気軽にご相談ください。